Mag-log inジョブを奪われたアルクのことが気になりつつも、俺は旅立つことにした。
一応は狩りや農作業で身体を鍛えている。勇者というジョブ補正に期待をして、大した準備もなく動き出すことに。
「父上、母上、世話になりました。俺は世界を救う旅に出かけます」
正直に世界の救済とか無理だと思う。
とはいえ、俺は十七歳で死ぬ運命にあったんだ。その運命が変わったのだとすれば、死ぬ気で頑張るくらいはできるはず。それにフィオナと親密になって大人の階段を駆け上がったりできるかもしれないし、旅立つことに疑問は感じなかった。
「とりあえず祈っとくか……」
早朝に家を出たので、まだ聖堂には誰もいない。七柱の女神像が俺を迎えてくれるだけだった。
祈りを捧げたならば、シエラが再び現れるかもしれない。勇者としてどう動くべきなのかを俺は知りたいと思う。
「クソ女神様、早く降臨してください……」
祈りを捧げるや、俺は意識を失う感覚に陥る。しかし、それは一瞬のことだ。刹那に、まだ記憶に新しい空間へと俺は誘われていた。
目の前には神々しい輝きを放つ女性。だが、それはシエラではない。
「あんた……誰だ?」
眉根を寄せて聞く。てっきりシエラだと思い込んでいたけれど、眼前には燃えるような赤い髪をした女性が現れていたのだ。
ニヤリと笑った女性。彼女は頷きながらも、俺の質問に答えていく。
「僕は武運の女神ネルヴァ。僕の使徒である君が仕えるべき女神だよ」
唖然としてしまう。
俺は悲運の女神に魅入られたはず。だが、現れた女神はアルクに勇者のジョブを授けるはずだった武運の女神ネルヴァだという。「俺はシエラの使徒だろ? それに人は複数の女神から加護を受けられないはず……」
「使徒としての使命を与えると、その魂は過度に重くなる。故に使徒の偏った配置は世界に歪みを生じさせるんだ。よって僕たちは使徒の重複を避けなければいけない。でもシエラの固有スキルは強力でね、女神も世界も抗えないんだよ」
女神様の取り決めには理由があったらしい。世界を薄い布だと仮定すると、確かに一カ所が重くなると沈み込んでしまうもんな。
「ちょっと待て。俺とアルクは二人ともが使徒だった。同じ家にいるのだから、重複しているのと変わらないんじゃないか?」
「君の魂はかなり軽かったからね。加護を与えたとしても一般人より少し重くなるくらい。それに僕たち女神も馬鹿じゃない。君たちの配置には理由があるし、大陸の南側が重くなったせいで生じる歪みはちゃんと相殺しているから」
「失礼なやつだな? 俺の魂が軽いって、どういうことだよ?」
「ああ、ごめんね? 悪気はなかったんだ。軽い原因は一つ。君が青く輝いていたからさ。悲運ゆえに、君の運命はとても短かったからだ」
俺は息を呑んでいた。
そういやシエラが話していたな。俺はシエラの加護がないと十歳も生きられないのだと。長く生きることも重さに繋がるのなら、俺の魂はさぞかし軽かったことだろう。「三年ほどで世界は使徒の重さに慣れるんだ。世界が重さに馴染むまで使徒が動かなければ問題ないってわけ。今はもう自由に動けるだろ? 使徒が一カ所に集まったとして平気だ」
ああ、なるほど。確かにエクシリア英雄伝では六英雄が一カ所に集まっていたもんな。既に世界が使徒の重みに慣れた結果なのだろう。
「そんなわけで勇者の運命を背負った君を僕は無視できない。というより、現状のアルクは加護すら持っていないんだ。君が勇者に関連する運命を全てを引き受けてしまったからね」
嘘だろ? アルクは勇者というジョブを手に入れられないだけじゃなく、加護まで失ってしまったのか?
「アルクはどうなる? まさか幸せな未来まで奪ったとかねぇよな?」
「その点に関してシエラは上手くやった。ちゃんと勇者に関するものだけを指定しているから、全てを奪ったわけじゃない。それに僕も悪いようにはしないよ。アルクにはそれなりのジョブを与えるつもり。彼は幸せになれるよ」
その返答に俺は安堵している。
ゲームではリィナの死に関する未来を奪っていたのだ。これから先の未来まで奪っていないと知れたのは本当に良かったと思う。「きっと勇者だった方がアルクは幸せだっただろうな……」
「気に病むことはないよ。アルクは真相を知らないし、僕も怒っていない。むしろ前向きに捉えている」
「どうしてだよ? 武運の女神は善の女神なんだろ? 世界の救済を考えているはず」
「その通りだが、僕は君を利用しようとしていたからね。君が生まれるよりも前、僕はとある魂に惹き付けられていた。その子を使徒にしようとしていたんだ。でも、彼女には先天的な問題があってね。その除去をシエラに頼むつもりでいたのさ」
何となく分かる。それはリィナのことだろう。
聖女でありながら、武勇に長けた彼女のことだと。「リィナを使徒にしようとしていたのか?」
「あらら、君はよく知っているね? ならば分かるはず。幸運の女神と一緒だよ。僕は君がリィナの運命を背負ってくれるように働きかけていた。だから、君が生きたいと願ったとして咎める立場にない。君の命を使おうとしていたからね」
どうやら俺は複数の女神に命を狙われていたらしい。
悲運の女神に魅入られるだけはある。しかし、ディヴィニタス・アルマと口にするだけであれば、俺じゃなくても良かったと思うのだけどな。
「どうして俺なんだ? 悲運の女神は誰でも悲運にできたはずだろ?」
「いやいや、君は自分を過小評価しているね? 君の魂は輝いているよ。誰よりも青く冷たく異彩を放っている」
「青く冷たい?」
「僕たちは使徒を選ぶ上で輝きを重視する。君は深い青。簡単にいえば、もの凄く不幸ってことだ。対してリィナは黄色。強烈な光を発していた。かといって、二人共が悲運と幸運の女神に決まっていたわけじゃない」
よく分からない話だ。女神様の色は俺だって知っている。俺が青でリィナが黄色だとすれば、加護を与える女神様は決まっているようなものだろ?
「リィナには幸運の女神セラと僕。そして君には悠久の女神ニルスと美の女神イリアに、愚者の女神ルシアンと叡智の女神マルシェが手を挙げた」
「ちょっと待て! 四柱の女神が俺を使徒にしようと考えていたのか!? てか、どうしてシエラの名がないんだよ!?」
流石に受け入れられない。リィナに関してはまだ分かる。だけど、俺は実際に使徒とした女神が希望すらしていないのだ。
「シエラはいつものように静観していたからね。彼女は使徒選びに熱心じゃないから」
「じゃあ、どうして俺を使徒にしたのがシエラなんだよ!?」
希望すらしていない女神が選ばれるなんてどうかしている。希望した四柱が共倒れで失われでもしない限りあり得ないって。
「幸運の女神セラの提案だよ。最善を女神は選んだだけ。青の魂をシエラに託し、黄色を生かす。幸いにも他の色は代替が揃っていたからね」
どうやら、俺は満場一致で失われる運命にされたようだ。何事もなければ生け贄となっていたらしい。
「アルクを選ぶことに僕は不満を持っていたけれど、セラが使徒に聖女を授けるのなら、悪い話じゃなかったってわけ。君の悲運を何とかできそうなのもシエラしかいなかったし、シエラのスキルを授かるべきは君しかいないんだよ」
「いやいや、だから俺じゃなくても、ディヴィニタス・アルマを唱えられるだろう? 口にするだけで良かったんだぞ?」
「無理だよ。固有スキルに色は必須。君くらいの青でなければ、シエラのスキルは使えない。逆にもしも君がいなければ、女神の誰もリィナを選べなかった。結果的にリィナは悲運の女神シエラの加護を受けていただろう。悲しき結末しか彼女には訪れなかった」
なんだよ、それ?
女神たちは俺がいたからこそ、リィナを使徒にしようとしていたのか?「俺が……いなければ?」
「結果論だよ。第一印象なら、君もリィナも人気だったでしょ? でも未来を視ると、その限りじゃない。女神も愚かではないからね。輝きに魅せられただけで、使徒を選んだりしないよ」
俺の犠牲はリィナを生かし、最終的に世界を救う。ゲームにて知っていた話と女神の結論は同じであったらしい。
「女神たちは俺の命を軽んじているのか? 俺の死が前提だなんて、おかしくね?」
女神が等しく愛を注いでくれるのなら、それで良かった。
でも、女神たちは俺の命を道具のように扱う。リィナを生かすためだけの薬。一度使えばなくなってしまう道具でしかなかった。「だから僕は君を咎めないと言っただろ? これでも尊重しているんだよ。自ら運命を切り開いたルカ・シエラ・アルフィスのことをね……」
「本当か? 俺は青い輝きしかないってのに?」
「それも言ったはずだ。仮にも君は四柱の女神を虜にした。特に悠久の女神ニルスは白い輝きを好む。白は全ての色が混じり合った結果だ。よって君は予め全ての色を有していたことになる。深い青が際立っていただけ。早い話が女神たらしな色ってことだよ」
どうやら俺は際立った不幸があって青く輝いていたらしい。
四柱の女神に希望されたという事実はそのような推測に至っている。「僕は君が使徒になって初めて気付かされている。最初にリィナを希望したことが間違いだったと。あまりに青すぎた君の色に僕は見落としていたんだ。君は世界で最も赤い。血の色をした武運の輝きを誰よりも帯びていたのさ」
俺は言葉を失っている。青いだけだった俺の魂が赤く輝いていたとか。
「誰よりも赤い……?」
意図せず胸が高鳴っていた。
単にアルクのジョブを奪ってしまっただけだと考えていたのに。偽物の勇者を演じるつもりだったというのに。
ネルヴァは告げる。俺が勇者であり、武運の女神の使徒である理由を。
「真紅に輝く君に僕は魅入っているのさ――」
私とフィオナ殿下は二人して森へと入ります。 最初に水精霊の雫をかけてもらいましたので体調も完璧です。しかし、本当に殿下は美しい人でして、慈愛の心まで持ち合わせているのですから最高の姫君だと思います。 フィオナ殿下のレベルが二つ上がったところで休憩中。恐らく私の身体を気遣ってくれているのでしょう。「リィナ様は聖女であられますのに、剣を持って戦われるのですね?」 フィオナ殿下が水分補給をしつつ言いました。 ああ、それね。私だって祝福の儀を受けるまで聖女になるだなんて考えもしなかったんだもの。健康のために始めた剣術が意外と面白くて、今でも続いているというだけです。「女性らしくなくてすみません……」「ああいえ、そういう意味では! 頼りになると考えていたのですわ」 聞けば、この組分けには不安を覚えていたみたい。まあ聖女と精霊術士だけで黒山に入るのは流石に躊躇するところですよね。「しかも、本当にお強い。わたくしの見せ場がなくなってしまいますわ」「ルカ様のおかげです。レベリングに付き合ってもらいましたから。今はソロでも危険度三等級くらいなら戦えます」 ルカ様がいなければ、こうはなっていません。 本来、聖女というジョブは力に長けていませんし、私の強さは極端に上がったレベルのおかげなのですから。「ルカ殿下は本当に真っ直ぐなお方なのですね……」「ルカ様は芯をしっかりと持っておられます。私の病気を知っていたとしても、使徒としての使命を忘れない。あの方はきっと世界を救う。誰にも負けない信念をお持ちなのですから」「目的はわたくしも伺いました。ですが、信念以外にも感じますの。ファイアードラゴンに襲われたわたくしたちを逃がしてくれたのです。あの場面はわたくしたちを切り捨てても良かったと思います。仮に世界を救うことを第一としているのなら」 ルカ様はそういう人ですからね。 誰にでも手を差し伸べてしまう。彼は身の危険など考慮できない。危機にある者を見つけたのなら、救うことしか考えていないの。「ルカ様のアレはお人好しです
二手に分かれての登頂。八合目で落ち合う約束なのだが、出発点は明確に異なっている。「さてミリア、お前はその短剣で戦うのか?」 まず気になったのはミリアの武器である。かつて包丁で戦ったことのある俺だから、余計に気になってしまうのだ。 なぜなら短剣は扱いやすいけれど、致命傷を与えるのに不向き。レベル上げという縛りにおいて残念な効果しかなかった。「長剣は重いですし……」 こんなときミリアが男であればと考えてしまう。 残念ながら愚者の女神の使徒は女性であり、長剣を振り回すほどの力がない。「じゃあ、錬成してみろ。お前ならできるはずだ」「錬成ですか?」 俺はアイテムボックスから、魔将軍マステルの亡骸を取り出す。錬成素材としては最上級と言えるものだろう。「これは俺が討伐した魔将軍マステルの亡骸。腕を切り落とすから待ってろ」 長剣として錬成するのに、全てを使う必要はない。 俺はとりあえず右腕を切り落として、ミリアに手渡す。 流石に躊躇っていたけれど、王子殿下が手渡すものを拒むなんてできなかったのだろう。「レベル20であれば等価錬成を覚えているはずだ。手持ちの小剣とこの素材を使って長剣を錬成して欲しい」 実をいうとゲームにおいて俺はミリアをレベル50までしか上げていなかった。彼女が加護として授かったスキルですら俺は覚えさせていない。 未知なる部分が多かったものの、等価錬成は回復薬を大量生産するのに役立っており、突出した力はなくとも重宝するスキルであった。「分かりました。初めてですけど頑張ってみます」 小剣とマステルの右腕を並べ、ミリアはスキルを行使する。上手くいけば素材に応じた長剣ができあがることだろう。「等価錬成!」 即座に錬成陣へとアイテムが吸い込まれていく。 輝きを発したそれは次第に光を失い、錬成結果が明らかとなる。「あれ……?」 錬成陣に残ったのは真っ黒なアイテムであった。既に短剣でもない。黒く澱んだ何かである。
準備を済ませたフィオナたちとロビーで合流。俺たちはレザルの街をあとにし、国境付近にある黒山へと馬を走らせていた。「フィオナ、馬に乗れたんだな?」「わたくしは戦うと決めてから全てに取り組みましたの。戦場にて必要なことを精一杯にこなしてきました」 俺が死んだものと考えていたフィオナは必要と思われる全てに努力してきたらしい。 正直に助かっている。もしも彼女が馬に乗れなければ、誰かが後ろに乗せる必要があり、それは俺である可能性が高かったからだ。 美女にしがみつかれることは男冥利に尽きるけれど、リィナの嫉妬をその身に浴びるのは生きた心地がしないだろうし。「あとミリア、初めまして。君は戦闘に長けていないだろうけど、有能な加護を持つ者だ。申し訳ないけれど、強くなってもらう」 異なる世界線で会っていたけれど、フィオナとも初対面となっていたのだし、恐らく矛盾を生まぬように改変されているはずだ。「ルカ殿下、初めまして。あたしはただのメイドだったのですが、女神様に加護を授かっていたみたいです。世界を救う使命があるのだとか……」 まあ困惑するだろう。 一応は貴族であるはずなのだが、ミリアは洗礼も祝福も受けていない。三女であったことも原因なのだろうな。「戸惑うだろうけど、俺は君が優秀な錬金術士になれると聞いている。期待しているぞ?」「ははは、はい殿下!?」 他にも気になる話が俺にはあった。 どうせ一時間は馬を走らせる必要がある。この機会に聞いておこうか。「それでフィオナ、フィンはどうなっている?」 祝福を受けたフィオナであれば何か知っているだろう。 皇国側最後の英雄。時空術士フィン・ニルス・クロノリアはやはり騎士学校に入学していない。「ニルス様の使徒でしょうか? しかし、イリア様は教えてくれなかったのです。なので、騎士学校にはミリアだけを連れております」 まあそうだろうな。女神たちは同じ目的を持っているというのに、協力し合っているという様子はないのだし。「ただニルス様はルカ様を狙っ
翌日は入学式であった。俺は代表して挨拶することになっている。 二年前、アークライトが務めたとのことで、俺に声がかかったらしい。かといって、本年度はイステリア皇国の皇女殿下も入学されていたのだけど。「ルカ・シエラ・シルヴェスタだ。一年間、よろしく頼む。代表での挨拶とのことだが、まず最初に言っておくことがある」 騎士学校には王国と皇国の上位貴族以外に、小国の王族や上位貴族も入学している。 基本的に彼らは世界の平和を求めておらず、騎士学校を卒業したという肩書きを手に入れたいと考えている者たちだ。 だから、言っておかねばならない。俺が遊び半分で来ているわけじゃないってことを。「俺は魔国の侵攻から人類を救うために来た」 それ以外の理由はない。女神の使徒として俺はこの場にいるのだから。「よって真面目に訓練しない者には容赦ない叱責を加える。貴族院は身分差を考慮しない場所であるが、シルヴェスタ王家との関係を重んじるのなら俺が話す通りに動け」 ざわつく大講堂。入学式に不似合いな俺の挨拶は全員を戸惑わせている。「世界の滅びは近い。気の抜けた訓練は許さない。気に入らないのなら、さっさと所領へ帰れ。戦う気がないのであれば邪魔だ」 学長ですら戸惑っている。俺が王子であるから静観しかできないのだろう。「優秀だと感じた者は重用させてもらう。女神様の話では在学中に戦争は拡大する。シルヴェスタ王国内も戦地と化すだろう」 帝国が存在する現状では信じてもらえそうにない。だから、俺は女神様の話として、知りうる事実を告げていた。「戦って未来を守ろう。人類の明日が永遠に続くように……」 言って俺は壇上を去る。 魔国を滅ぼし、世界を安寧に導くだけ。それは俺が騎士学校へと入った理由の全てだった。 呆気にとられたのか、拍手はまばらである。まあ別に賛同を得ようとしたわけではない。 俺が本気であること。世界を救済に導く決意を分かってもらえたら充分だ。「これはシリウスのためでもある……」 俺が運命を奪
私はフィオナ殿下と女子寮にある自室へと来ていました。 発作の症状は随分と緩和しています。薬は血流を介して魔力を循環させるものでしたが、成分の大部分が高純度の魔石でして、飲みすぎてはいけません。 薬は体内に魔力を循環させられるのですが、服用しすぎると魔力を生み出す魔腑という器官がダメージを受けてしまうからです。「申し訳ございません、フィオナ殿下……」 まずは謝罪を。従者を押しのけてまでルームメイトになってくれたのです。隣国の侯爵令嬢ごときに彼女は手を差し伸べてくれたのですから。「構いません。それより貴方がルカ様の仰っていた想い人なのですね? わたくしは正直に嫉妬を覚えておりますが、それは貴方の命を輝かせることに何の支障も生みませんわ」 やはりフィオナ殿下もルカ様を慕っておられる。 まあ当然よね。一般の市民までルカ様を悪く言う人はいない。まして彼女は元婚約者。彼の人となりを既に知っていることでしょう。「ご病気のことですれけど、わたくしの精霊術にて緩和できるかもしれません」「本当ですか!?」 意外な話です。私は彼女の恋敵だというのに、フィオナ殿下は期待を持たせるようなことを口にしていました。「レベル20で覚えた【水精霊の雫】。このスキルは精霊の癒やしを体内に浸透させられます。対象者の体内魔力を活性化させ、魔法威力を増大させるというものですわ」 聞く限り、私の病状に合うような気がする。 体内の魔力を活性化させることができれば、弱り切っている臓器にも影響を与えるのではないかと。「デメリットはありませんので試してみましょう。水精霊召喚!」 フィオナ殿下は早速とスキルを行使してくれます。 眼前に召喚された水精霊が私の身体に幾つもの雫を降り注いでいく。「あっ……?」 身体が熱くなっていました。 きっとそれはスキルの効果。心なしズドンと重く感じる倦怠感が薄れたような気がします。「効果があったように感じます!」「それは良かったですわ。治療ではございませんけれど、魔
俺とリィナは双国立騎士学校がある北東の街レザルへと来ていた。 直ぐ北側はバリウス帝国であり、そこは今も魔国との交戦中である。「騎士学校に入ってもバリウス帝国が存在しているなんて」 ゲームの開始時点は帝国が滅んだあとだ。 それどころか王国内の前線基地も襲われ、アークライトが亡き者となっていた。しかし、現状において、帝国もアークライトも無事であり、人類側が優勢のようにも感じられている。「だけど、脅威は去っていないってか……」 聞けば魔王ベルゼス・バルゼは異様な強さであるらしく、魔将軍マステルが消失したところで、痛手でもないようだ。 今現在は騎士学校での手続きをリィナがしてくれているところ。俺は手持ち無沙汰に彼女を見つめているだけだ。 時間がかかっているのは山のような書類を提出しなければならないからである。俺は王子だというのに、役所仕事は割愛したりしてくれないらしい。「とにかく戦力不足だ。モブたちから戦力を見つけ出さないと」 双国立騎士学校は基本的にシルヴェスタ王国とイステリア皇国の上位貴族が中心であるけれど、周辺の小国からも入学者がいる。 ただゲームでは主要キャラ以外に名前を持つ者がいなかったので、俺には誰が強者であるのか分からない。選抜は授業を見てからということになる。「殿下、手続きが終わりましたよ?」「ああ、すまないな。やっぱ寮は別々か?」 夜の営み。それは俺が生を感じられる瞬間に他ならない。しかし、並行世界と同じであれば、決して叶わぬこと。男女の寮は別々になっているはずだ。「それは流石に。だけど、殿下がお望みなら……」「同室にしてくれたら良かったのにな?」「仕方ないですよ。私たちは別に婚約者でもありませんし……」 ゲームと同じであれば、王子といえど恐らく相部屋であって優遇などされないのだろう。「明日の入学式で殿下は代表して挨拶しなければなりません。文面は用意しておきます」「ああいや、俺は自分の言葉を伝えたい。義務的に入学したわけではないのだと表明した







